地熱開発の影響監視 環境省、温泉モニタリング普及へ


規模や立地にかかわらず、多種多様な温泉を保全していく施策が必要だ(写真はイメージ。本文とは関係ありません)

湯量や泉温のデータ取得、AIで変動要因解析

 湯量や泉温などを連続的に測定する温泉モニタリングに関するセミナーが開かれた。脱炭素社会の実現に向けて政府は地熱開発を促進しているが、大規模な地熱発電は周辺の温泉に悪影響を及ぼす懸念がある。開発に対して地域の合意を形成するには、科学的なデータに基づく温泉資源の保護、変動要因の特定による温泉事業者への補償制度の確立などが不可欠だ。温泉モニタリングの装置や解析システムの開発が研究機関で進んできたが、普及や活用の具体策は今後の課題。環境省は、温泉モニタリングの運用を試行する事業を来年度実施する。

 セミナーの主催は、温泉の温暖化対策研究会(会長・奥村明雄日本環境衛生センター会長)。1月27日にオンラインで開催され、環境省温泉地保護利用推進室の北橋義明室長をはじめ、経済産業省管轄の研究機関、産業技術総合研究所(産総研)の福島再生可能エネルギー研究所再生可能エネルギー研究センター総括研究主幹の浅沼宏氏、日本温泉協会副会長(地熱対策特別委員会顧問)の佐藤好億氏(福島県・二岐温泉)が講演した。

 

■環境省の施策

 環境省は、予算を投じてエネルギー開発を推進しているわけではないが、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを政府全体で進める中で、昨年4月に「地熱開発加速化プラン」を策定した。2030年までに地熱発電施設数を現在の約60施設から倍増させる目標を掲げている。

 地熱開発に関しては、温泉や自然環境、景観への影響に対する不安から地元との折り合いが付かず、調査、開発が停止されている案件も少なくない。このため「加速化プラン」では、科学的なデータの活用による地域の不安解消、円滑な合意形成を通じた開発の加速化を目指している。

 温泉事業者などの不安払拭(ふっしょく)に向けては、温泉の流量や温度を連続的に測定する温泉モニタリングの普及を目指す。地熱開発への対応以外にも、地域における温泉資源の持続的な利用のため、温泉の過剰採取防止や余剰温泉の熱利用などの検討にデータを生かすことができる。

 環境省は、温泉モニタリングの活用に向けた試行事業を来年度本格化させる。「地域共生型地熱利活用に向けた方策等検討事業」として、温泉地で温泉モニタリングを試行し、活用の仕組みを構築する。予算案には2億5千万円を計上している。

 環境省の北橋氏は「環境省が中立的な立場で温泉モニタリングを試行することで温泉事業者の不安を解消する。効果的なデータの集約、管理、特に、評価や公開の仕組みを構築したい。環境省が全ての温泉地で行うわけにはいかないので、全国で自主的な取り組みが進むよう土台をつくる」と説明した。

 

■システムの開発

 産総研は、地熱発電の導入促進、地域との共生のための技術開発について研究している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として、関連企業と連携し、14年度から温泉モニタリングの装置、データ解析システムの開発に取り組んできた。

 最新型の温泉モニタリング装置は、温泉の配管に取り付ける方式で、本体は幅30センチ、高さ20センチ、奥行き20センチ程度。流量や泉温、外気温などを1分間に1回計測する能力がある。取得データはインターネット上に転送でき、場所や時間を問わずパソコンなどで閲覧できる。すでに全国10カ所以上の温泉地で試験を行った。

 源泉所有者などが導入しやすい価格を目指して開発しており、量産体制に入った場合の想定価格は本体が約20万円。加えて温泉配管に接続するため、バイパス管型で約88万円、バイパス管なしで約13万円の費用を導入時に見込む。年間の運用経費は、通信費など1万3千円程度とみている。

 取得した温泉データの処理では、人口知能(AI)技術を使って変動要因をモデル化し、解析できるようにした。温泉の流量や温度の変動に影響しているのが、外気温や降雨なのか、それとも地熱発電などなのか、といった評価が可能な解析手法がほぼ整備された。

 地熱発電と温泉の共生について産総研の浅沼氏は「広域連続モニタリングによって温泉事業者の安心を担保できるようにしたい。ただし、地熱発電所が建設される前の基礎データが重要で、長期間データを取得していく必要がある。これらの科学的なデータは、地域の合意形成や(温泉に影響が出た場合の)補償の枠組みの構築についても用いることができる」と述べた。

 

温泉枯渇、宿廃業を危惧

温泉協会佐藤氏 地熱開発に規制、補償求める

 日本温泉協会の佐藤氏は、温泉モニタリングの普及に期待を示す一方で、大規模な地熱発電開発を行う場合、協会が提示している五つの条件を基に、開発への一定の規制や、経営に影響を受けた温泉事業者への補償の確立などを要望した。

 講演での主な要望内容は次の通り。

 (1)地元(行政や温泉事業者など)の合意

 行政、温泉事業者の合意を取り付けることが最重要だ。温泉事業者は零細・小規模、家族経営が多く、情報に乏しい。意見を上げることが困難な場合も多い。地元の声を幅広く収集し、地域の合意を形成してほしい。

 (2)客観性が担保された相互の情報公開と第三者機関の創設

 温泉事業者、地熱開発事業者の双方が客観的なデータを相互に公開し、中立的な機関を創設して意見を調整することを希望する。

 (3)過剰採取防止の規制

 大規模な地熱発電による熱水などの使用量は、温泉入浴とは桁外れに多い。資源は有限であると双方が理解した上で、既存の温泉に影響が出た場合は直ちに開発をストップするくらいの強い規制を行ってほしい。特に自然湧出泉は非常に微妙で貴重なもので、減温、減水が一度起きれば元には戻らない。温泉帯水層と地熱貯留層の離隔距離を厳格に規制するなど過剰採取を防止してほしい。

 (4)継続的かつ広範囲にわたる環境モニタリングの徹底

 温泉モニタリングの早急な実施を要望したい。温泉事業者だけでは広範囲に実施できない。全国的に大規模、大深度の地熱開発を推進するのであれば、温泉と自然環境の常時モニタリングを全国で行うよう環境省を中心に対応を急いでほしい。

(5)被害を受けた温泉と温泉地の回復作業の明文化

 地熱発電と、温泉の減温、減水、枯渇には因果関係が認められないとする意見があるが、現実問題としてそうした現象が起きている。声を上げられず、廃業した温泉施設も少なくないと思う。このような悲劇を繰り返さないために、地熱発電には一定のリスクがあることを認めた上で、周辺温泉地に被害が生じた場合には、地熱開発側に責任を求めるべきだ。保険制度、共済制度などについても考えないといけない。国、地熱開発側に検討を要望したい。

 

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